
大鰐には温泉やスキー場、豊かな自然など、数多くの魅力にあふれていますが、中でもそのブランド化に最も力を注いでいるのが「大鰐温泉もやし」です。え、もやし? と驚かないでください。大鰐温泉もやしは、もやしの概念を覆す、大鰐町自慢の高級食材なのです。
大鰐温泉もやしは、およそ350年以上前から栽培されてきたという津軽伝統野菜の一つで、津軽三代藩主・信義公が大鰐で湯治する際は必ず献上されたものとされています。
その栽培の特徴は、温泉水のみを使用して土耕栽培で育てているということ。もやしというと一般的には水耕栽培で育てられますが、大鰐温泉もやしは屋内で、しかも土耕栽培で丹精込めて育てられます。しかも、土床には温泉の配管を通し温泉熱で土を温め、また散布する水ももちろん温泉水を用いて栽培します。
その栽培の現場を見せていただきました。取材に応じてくださったのは、大鰐温泉もやしの若き生産者として注目されている八木橋祐也さん。350年の歴史を持つ大鰐温泉もやしは一子相伝で受け継がれてきた伝統的なものです。大正時代に29軒あった大鰐温泉もやしの生産者は近年約6軒ほどまで減ってしまい、このままでは伝統が絶えてしまうという危機的状況に陥っていました。そこでこの秘伝ともいえる製法を絶やさぬために後継者を募集し、初めて一子相伝の定めを越えた生産者となったのが大鰐町生まれの八木橋祐也さんです。もともと町のガソリンスタンドに勤めていたそうですが、家業のりんご農家をいずれ継ぐとした際に、冬の兼業にも向いていると考え、手をあげたそうです。
2009年に大鰐温泉もやし生産の先輩農家に弟子入りし、その後独立されました。現在はガソリンスタンド時代の先輩である八木橋順さん(偶然同じ苗字)も迎え、2人でもやしの生産に勤しんでいます。
さっそく、その生産の現場にお邪魔しました。朝早くから薄暗い小屋の中で収穫の作業が続けられていました。小屋の中には、藁の上にむしろが掛けられている列が多数。じつはこの藁とむしろの下で大鰐温泉もやしが栽培されています。
この豆5升を2~3時間かけてサワに敷き詰めます。これが1週間で約40キロの大鰐温泉もやしとして収穫されます。全ての豆が均一に成長するよう、発芽までの4日間は温泉水をかけ、地熱も使って30度という温度を保ちます。
サワから大鰐温泉もやしを収穫したら、サワの中の残土はきれいに取り払い、新しい土を入れて次の収穫の準備をします。毎日出荷を続けられるよう、ひとサワごとに場所を変えながら連作していきます。また、大鰐温泉もやしは黒土で育てていますが、一度栽培に使った土は専用の穴に入れて温泉水をかけて養分を蓄えさせながら、一年間休ませるそうです。
豆をまいて1週間経ったサワの藁とむしろを取り払うと、背丈40センチほどに成長した見事なもやしがびっしりと詰まっていました。そのもやしを八木橋祐也さんはしっかり握りしめて丁寧にすくい上げ、大きく左右に揺らして土を払います。そしてサワの脇に用意しておいた藁で一束ごとに括って並べていきます。
そして相棒である八木橋順さんがこの収穫したての大鰐温泉もやしの束を隣の水洗い場に持っていき、温泉水を使ってもやしについている土を丁寧に洗い流していきます。栽培から出荷まで水道水等は一切使用せず、温泉水だけを使っているのが大きな特徴です。
大鰐温泉もやしは、もともと農家の冬の時期の兼業として生産が行われてきたものであるため、夏場の流通はほとんどありませんでした。しかし、通年の出荷の要望も多く、八木橋さんたちは一年を通じて大鰐温泉もやしの生産に力を注いでいます。
とはいえ、夏はカビや菌が繁殖しやすいため、豆の発芽率も下がり栽培が難しいといいます。安定した通年販売ができるよう、日々試行錯誤を続けているそうです。
大鰐温泉もやしは、大鰐町内では「地域交流センター鰐come」「ママの店」「福士食料品店」の3店舗で購入が可能ですが、入荷するとすぐに売り切れてしまうという人気ぶり。また契約している町内の飲食店や旅館・民宿にも卸され、食材として使われています。また、東京の大手百貨店などにも一部卸され、高級食材として一流料理店などで見かけることがあります。
「もやし」の概念を覆す、大鰐温泉もやしの深い味わいと歯ごたえを、ぜひとも体験してみてください。(G)
大鰐温泉もやしが入手できる「鰐come」
「大鰐温泉駅」から徒歩3分
「大鰐弘前IC」から車で7分
※駐車場あり